ハートは真ん丸vv

 

 

 今年の2月14日、バレンタインデーは、金曜からの三連休明けの月曜日。
“去年は土曜でお休みの日だったんだよね。”
 ボクと進さんと、通ってたガッコが違ったから。お休みの日だったっていうのはラッキーだったんだけれども。でもね、進さんが受験生だったので、手渡し出来るかなぁって、ちょこっと心配でもあったんだっけ。………え? あ。/////// 違いますよう。これは洒落のつもりで言ったんじゃないですよう。//////


  ………瀬那くん。それって、少し前のスキーのお話でもやってたネタでは?






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 のっけから失礼ばかりしております。
おいおい 厳寒期の真っ只中に、また今年もこの季節がやって来た。豆まきが終わって、中国のお正月が来て、建国記念日が過ぎた後。女の子の切なる想いを乗っけたチョコレートがあちこちで飛び交う日。お菓子屋さんの仕掛けたイベントだって、今じゃあ皆して判っているのにね。それでも何でだか、無視出来ない。ただのお遊びだもんって言いながら、卒業しちゃう先輩へ“エイッ”て勇気出して告白するのには絶好のタイミングだしね。そんなこんなで、街中でも雑誌の特集でもテレビでも、春の訪れを前にべビーピンクやオレンジの華やいだパッケージや、1つ300円からとかいう高級トリュフの話題が飛び交うシーズン。

  “進さん、帰って来てるんだvv

 アメリカへの遠征に出ていた、アメフトのジュニア代表チームに選抜されてた進清十郎さん。フロリダで催されてた対抗戦に出場し、その後のNFLの頂上決戦にあたる“スーパーボウル”も見学して来ての凱旋で。
『YAーーーーHAーーーっ!!』
 春から進学予定のR大学のグラウンドにて、同期生の面々と基礎トレに勤しんでいたところへ。皆が思わず飛び上がったところの、お久し振りのマシンガン掃射という鳴り物つきで帰還した某先輩だったことから“あっ”とお顔が輝いた小さなランニングバッカーくん。頼もしい先輩さんの帰還も勿論嬉しかったし、
“…ということは。///////
 そうと連動して思いつくことがもう一つあったから。…といいますか。
『何だお前ら、連絡取り合ってなかったのか?』
 個々人の“そゆこと”には原則的にあんまり口を突っ込まない主義の先輩さんが、そりゃあ判りやすいお顔になって呆れたくらいだから大したもので。
『あの野郎なんか、いつの間に免許取ったやら、空港まで自分の車で迎えに来たくらいだってのに。』
 荷物が多かったから助かったけどなと、またぞろ物騒なものを密輸して来たのではと栗田さんが青くなった“恐ろしいこと”をポロッと口にした悪魔さんへ、
『あ、桜庭さん、免許取ったんですかvv
 凄いなぁ、お忙しい人なのに。マニュアル車でですか? 凄〜い。だから、そうじゃなくってだな、と。何でそっちの話題で盛り上がらにゃならんのだと、ちょっぴり照れつつ やっぱり呆れた蛭魔さん。せめて帰って来る日くらい教えとけってんだ、あの野郎と、何だかんだ言いつつも後輩さんは可愛いので、朴念仁なカレ氏の方をこき下ろすところも相変わらずながら、
『U大の春合宿は、正式な春休みかららしいぞ?』
 二月の末までは後期試験があったりするから、それまでは特に予定もない筈だと、セナのふわふわした前髪をくしゃくしゃっと丸めつつ、さりげない助言というお節介をして下さった、ホントは優しい人であり。

  “だったら、あのねvv

 今年もチョコレート、渡せるのかな。男の子なのに変なのって思わないでもないのだけれど、進さんはあんまり甘いものは食べないってちゃんと判っているのだけれど。例えば“お帰りなさい”って言いたいだけなんて目的で“逢いませんか”ってお誘いするの、何か仰々しいような、そんなだけでってご迷惑じゃないかしらなんて思いもするセナだから。甘さを抑えたガナッシュに、やっぱりほろ苦いビターチョコをテンパリング
(コーティング)して。去年のブラウニーよりちょこっと頑張ってのお手製チョコを準備して、それこそ女の子みたいにドキドキしながら進さんへのメールを送ったの。

  《 進さん、お帰りなさい。
    来週の月曜日、学校が終わってからで良いですからお逢い出来ませんか?》

 セナの側は受験生としての“週一登校モード”になってるの、ちゃんと覚えてくれてた清十郎さん。自分の側もまだ少しは時間に余裕が持てるからと、二つ返事で了解して下さった。ホントはネ、その直前の連休中のどれかでも良かったんだがと、そうと思った進さんだったそうなのだけれど。
『そういうデリカシーのないことは辞めたげなよね。』
 あああ、やっぱり眸ぇ離すと すぐにこれなんだからと。こちらに蛭魔さんという理解者がいるのと同じよに、進さんの傍らで気を配ってて下さる桜庭さんが、嫌な予感がして問いただした上で制
めて下さったというのは…後になって教えて下さった“後日談”だったりするだけれども。
『ったく。進の落ち度でセナくんが傷つきでもしたら、妖一の機嫌まで悪くなるんだからね。』
 だから、しっかりしてくれないとと諭した辺り、こちらさんも相変わらずみたいです。





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 月曜日は“登校日”じゃあなかったので、待ち合わせたのはセナくんのお家で。進さんの方は大学の講義が一時限目だけあったのでと、それに出てからの逢瀬となって。駅までお迎えに行きますと言ったのに、そんなのダメだと言い切られちゃったの。
“う〜〜〜。///////
 こやって待ってる方が、いつチャイムが鳴るんだろうかと却ってドキドキするのになぁ。頑張って用意したお昼ご飯は、オムライスとコールスローサラダと春雨の中華風スープ。時々キッチンまで向かい、最後の仕上げの玉子のためにとフライパンを温めては、いやまだ早いかと火を止めて、そわそわ・そわそわ、落ち着かないことこの上なくて。今日は朝から家にいる仔猫のタマも、何をか嗅ぎ取ったのだろうか。そんなセナの足元や眸の先にて、そわそわと落ち着かない様子を見せていたりし。これも何度目だろうか、玄関先に靴やら何やら、散らかってはいないかしらと確かめに出たところで、
「………あ。」
 家の前の通りの向こう。見慣れた…されど懐かしい、大好きな長身の人影が見えて来たのへお顔がほころぶ。だってあの涼しげな目鼻立ちのお顔に半月も逢えなかったんだもの、しょうがない。深く響いて心地の良い、ドキドキするお声だって聞いてないんだもの、しょうがない。黒いシャツに重ねた渋い色合いのセーターに、長い脚を尚のこと引き締めて見せる濃色のワークパンツ。フードのついたジャケットは、胸の厚さや腕回りの雄々しさに合わせて買うと、どうしても腰の辺りが余ってしまうのだと言ってらした、ちょっぴり大きなコーデュロイので。
“…あれって。///////
 実はネ、セナが見立てたお洋服だから、この冬はいつもと言っても良いほど、コートの下とかにずっと着てらした上着なの。せっかくの服ならあんまり着ないでいなきゃ傷むわよなんて、たまきさんからも からかわれたそうだけれど。それはお気の毒にと思いもしたけれど、ホントのところは。やっぱり何だか、嬉しいセナくんであり。
「…。」
 こちらに気づいてかすかに会釈をして下さったのへ、見つかっちゃった、どうしよ・どうしよと頬を赤らめながらドキドキしてしまう、ちょぴり小心な純情ぶりも相変わらず。でもネ、傍から見ていると…やっと帰って来たご主人様の気配に落ち着けないで、高揚する気持ちを持て余してうろうろしている小型犬みたいにも見えるんですが。
(苦笑)
「小早川。」
「いい、いらっしゃいませっ。///////
 あわわ。何だか変だぞ、ボク。声が裏返りそうになってしまって、ますます恥ずかしいことだと真っ赤になってしまった小さな少年へ。大きな進さん、ふわりと微笑って。
“………あ。”
 長い腕を差し伸べると、仔猫を構うみたいにぽふぽふと、大きな手のひらでセナの前髪を撫でて下さるの。大きくて温かで、何よりも…セナの大好きな優しい手。
“………進さんだ。///////
 凛々しいお顔より精悍な姿より、一番に“進さんだ”と感じてしまうもの。試合中には鋭い槍のようになって、容赦なくかざされ突き通される脅威の存在だのにね。まろやかに温かで、しっかりと頼もしい。とうに加減もご存知で、でも…小さい子を構うそれではなく。愛しいあなたへ触れたくてという、持ち主さんからの切ない想いに雄弁な。セナが大好きな進さんの手。嬉しい嬉しいと、それこそ泣きたくなりながら、それでもね。にっこり笑ってご挨拶するの。


   「お帰りなさいですvv 進さん。」


 春も間近い陽だまりに、愛らしい笑顔がきれいに咲いて。これに勝るお出迎えのおもてなしはないだろうなと、寡黙で武骨な仁王様、ついついお顔がほころんでしまったそうでした。














   heart_pi.gif おまけ heart_pi.gif



 足元へとまとわりつくタマを抱えたセナくんに誘
いざなわれ、お家に上がって上着を脱いで、さて。お腹すいたでしょう? 急いでお食事の用意をしますねとキッチンへと向かいかかったセナくんを、ちょっとお待ちと引き留めて。進さんが ついと差し出したのは…小さめサイズながらも丁寧な撥水加工をされてつやつやの、手提げタイプの紙袋。無柄でシックな焦げ茶という大人っぽい色合いの代物ではあったけれど、
“………あれれ?”
 脇のマチのところに刷られたマークには、何だか見覚えがあるような。この時期だけ店頭に並ぶものもあるので、自分用にと買ったのが、これと同じ包装紙で包んでもらいはしなかったっけ?
「考えてみたら。甘いものが好きなのは小早川の方だからな。」
 何で昨年の段階で気がつかなかったのだろうなと、真っ当な答えにしっかと裏打ちされた、それは堂々とした当然顔で差し出された包み。恐る恐る受け取ったセナくんは、恐る恐る訊いてみた。
「えと…あの。チョコレート、買いに行かれたんですか?」
 うむと頷いた進さんだったが。
“えっと、あの…。”
 年の初めのウィンターバーゲンの次にやって来る、超目玉の催し物として。どこの百貨店だって売り場が大増設されてたろう、それでも女の子が溢れんばかりに詰め掛けていたろう、甘くてファンシーなそんな場所へ。この進さんが足を運んでいただなんて………。

  “………うっそぉ。”

 こらこら、セナくん。気持ちは判るが、そんな感想はなかろうよ。
(苦笑)




  〜Fine〜 05.2.10.〜2.11.


  *まずは順当に原作Ver.からのお話でしたvv
   今時のバレンタインデーってどんなものなんでしょうね。
   バブル期の“義理チョコばら蒔き型”とも違うのでしょうし、
   さりとて、ここ一番の“告白大舞台”になる人っていうのも
   ほんの一握りに限られることだろうし。
(笑)

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